建設業における女性活躍コラム Vol.3


ライター:日本建築仕上学会 女性ネットワークの会 熊野康子主査

建築現場で働く女性へのアンケート結果 ~後編~

1.はじめに

 女性ネットワークの会は、日本建築仕上学会 企画事業委員会のWG活動として発足し今年で7年目となりました。今年は、新型コロナウイルスの影響で、女性ネットワークの会の講演会、その他の行事の中止、延期を余儀なくされています。しかし、こういう時にこそ、根をさらに深く伸ばしていく活動をしていきたいと考えています。

 2019年に女性ネットワークの会が隔年ごとに実施している「建築現場で働く女性へのアンケート」を実施いたしました。第3回目となる今回は、地方の建設系の女性の会にも協力いただき4月~5月に配布と回答の集計を行い、その結果を2019年6月28日に実施した第6回講演会にて公開いたしました。このHPを通じて、第1回(2020年1月10日公開)は回答者の年齢、経験年数などについての結果を報告いたしました。第2回(2020年5月13日公開)は現場の女性用仮設トイレに関するアンケート結果や現状について紹介しました。今回は「働く意識」について、アンケート結果を紹介します。

2.アンケート結果

<働く意識>
設問は10項目ありました。建設現場で働く女性の意見がこのセクションであります。

Q1 現場の仕事を辞めたいと思ったとき

 結果を図1に示す。地方では勤務時間が長いという意見が多いが、首都圏では休みが少ないとする意見が多い。また、2015、2017年の回答と比較した結果を図2に示す。「体力的にきつい」、「勤務時間が長い」という回答は減少傾向にはあるが、依然高い比率を占めている。一方で「休みが少ない」という回答が2017年よりも増加している。

図1  現場の仕事を辞めたいと思ったとき(2019)
図2 現場の仕事を辞めたいと思ったとき(2015~2019)

Q2 待遇面で男女差を感じることはあるか

2019年の結果を図3に示す。地方・首都圏ともに「感じることはない」とした人は約2割であった。2015、2017年の回答と比較した結果を図4に示す。回数を重ねるごとに男女差を感じる人が多くなっている傾向がある。

図3 待遇面で男女差を感じることはあるか(2019)
図4 待遇面で男女差を感じることはあるか(2015~2019)

Q3 待遇面での男女差を感じるのはどのようなときか

 結果を図5に示す。地方・首都圏ともに「優しく接される」「体力的に厳しいところでは配慮される」との回答が多い。地方では「事務的な仕事を任される」「電話対応を任される」などの事務仕事に関する回答も多い。2017年の回答と比較した結果を図6に示す。「体力的に厳しいところでは配慮される」、また「事務的な仕事を任される」「電話対応を任される」という回答も2019年は増えている。

図5 待遇面での男女差を感じるのはどのようなときか(2019)
図6 待遇面での男女差を感じるのはどのようなときか(2017・2019)

Q4 女性が現場で働き続けるために必要なことは何か

 回答はひとり3つまで選択した。2019年の結果を図7に示す。地方では、週休2日制、トイレの整備、女性が心地よく過ごせる休憩場所、有給休暇の促進、などの回答が多い一方で、首都圏ではフレックスタイム、在宅勤務の回答が高い傾向があった。図8は2015、2017年の回答と比較した結果を示す。傾向の大きな変化はなく、フレックスタイム制度、週休2日制、育児休暇や子育てが不利にならない評価制度がトップ3でこの傾向はずっと変化がない。

図7 女性が現場で働き続けるために必要なことは何か(2019)
図8 女性が現場で働き続けるために必要なことは何か(2015~2019)

Q5 男性(夫)の育児休暇について

 図9に夫の育児休暇取得状況を示す。取得した人がほとんどいないことがわかる。図10は夫に育児休暇を取得してほしいかという質問だが、女性の中にも「取得してほしくない」という意見があることがわかる。
今回は意見の記載を求めなったが、休暇を取ってもらっても育児を本当に手伝ってくれるか、もしくは休暇を取ってほしいが実際は難しいのではないかという意見があるのではないかと思われる。

図9 夫は育児休暇を取得したか
図10 男性に育児休暇を取得してほしいか

3.まとめ

アンケートの結果はいかがでしたでしょうか。現場で働く女性は増えていますが、その一方で検討が必要な事項が増えていることもおわかりいただけたと思います。
3回に分けて結果報告をしてきましたが、結果より、以下のような傾向がわかりました。

  1. 建設現場で働く女性のベテラン化が進んでいる。年齢や経験年数も高くなっている。また、結婚後や出産後も建設現場で働く女性が確実に増えてきている。
  2.  建設現場での仮設トイレ、作業服など働く環境については、改善がなされているようには感じられる。しかし、トイレだけでなく、着替えや身支度を整える場所の整備が今後必要ではある。
  3. 待遇面での男女差を感じている女性がさらに増加している。勤続年数が増え、年齢層が高くなりベテラン化が進んでいる現状がある。しかし周りの男性の意識がそこまで追い付いていないようにも感じられた。
  4. 女性が建築現場で働き続けるためには、家事、育児との両立が不可欠である。フレックスタイムや在宅勤務の実施も今後必要となるであろう。まずは週休2日制を望む意見が多いことなどからも、職員が交代でもこれらを実施していくことが必要であろう。さらには、ベテランの女性が今後も増えていくことを予測し、男性職員の意識改革、育児休暇や子育てが不利にならない評価制度はぜひ取り組んでいくことが必要と考える。

アンケートにご協力いただきました皆様に、心から感謝いたします。

今年度、女性ネットワークの会の本「続・今建築仕上女子がアツい」を9月に発刊する予定です。今回のレポートでは一部しか結果を紹介できませんでしたが、この本ではたくさんの結果を掲載したいと考えています。
時が過ぎていくのは早いもので、2021年度は「現場で働く女性へのアンケート」を実施します。

パワーアップした現場女子のアンケート結果を楽しみにしています。


熊野 康子氏プロフィール

株式会社フジタ 技術センター 上級主任研究員 

北海道 札幌市出身
平成元年 フジタ工業株式会社入社(現;株式会社フジタ)入社
技術センターにて研究開発業務、建設本部 建築エンジニアリングセンター建築技術部での技術サポート業務に従事。
2020年4月より、株式会社フジタ 技術センターに所属し、研究開発業務に従事している。
現在、日本建築仕上学会 女性ネットワークの会 主査を務める。

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