ライター:家入 龍太氏
この秋、土木工事の測量や出来形管理が大幅に楽になる?!
今年の5月から6月にかけて、NTTドコモとソフトバンクは、人工衛星を使って位置や高さを測定する際に、精度を数センチ単位まで向上させる「補正情報」の提供サービスに乗り出すことを相次いで発表しました。
一見、地味なニュースのようですが、両社のサービスによって屋外で行われる道路や橋、鉄道、そして上下水道などで行われる測量や出来形管理などが、大幅に楽になることが予想されるのです。
カーナビ用のGNSSは誤差が10メートルも
ひと口に人工衛星を使って位置を図るGNSS(全地球測位システム)と呼ばれる測位方法にも、いろいろな方法があります。
もっともシンプルなのが、カーナビなどに搭載されている「単独測位」とよばれる方式です。1台のGNSS受信機で、4個以上の衛星からの電波を受信し、位置を割り出します。しかし、衛星から地上に電波が届くまでには、大気圏や電離層の乱れがあるため、これらを通過するときに電波のスピードが微妙に変化してしまいます。その影響を受けて、10メートル程度の誤差が出てしまうのです。

最もシンプルな「単独測位」のイメージ。衛星からの電波が地上に届くまでの間、電離層や大気圏の乱れによって10メートル程度の誤差が出る(資料:国土地理院)
数センチの誤差で測位できる「RTK-GNSS」方式
しかし、工事現場で道路や橋を作るとき、10メートルもの誤差があっては話になりませんね。そこでもっと高精度に、数センチメートル単位で位置を求められるのが、「RTK-GNSS(リアルタイムキネマティックGNSS)という方式です。
現場近くに正確な位置がわかっている「基準局」を置き、現場内で位置を図る「観測点」と2点で同じ衛星からの電波を受信します。すると電離層や大気圏の乱れになど、受信電波の変動は、点でほぼ同じになります。
そこで2点での受信電波を比較すると電波の変動分を打ち消し合うことができ、測位精度は数センチメートルまで高められます。その比較に使われるデータが「補正情報」です。

RTK-GNSS測位のイメージ。既知点と観測点の2点で同じ衛星からの電波を受信し、電離層や大気圏の乱れによる電波の変動を打ち消すことで、数センチメートルの精度が出る(資料:国土地理院)
これまでは現場でRTK-GNSSを使いたいとき、近所に「電子基準点」という国が設置した公設の基準局などがない場合は、高価な機器をそろえて、自前で基準局を作る必要がありました。設置にかかる時間も1~2時間はかかるので、結構、面倒くさかったのです。
ソフトバンクは3300カ所を超える基準局を設置
NTTドコモやソフトバンクは、これまで設置が面倒だった基準局を、自社のケータイ基地局の鉄塔などに設置することで、全国の津々浦々に設置しようというのです。その結果、ケータイの電波が届くところなら、どこでもRTK-GNSS用の補正情報が手に入ることになります。
例えば、ソフトバンクの場合、携帯の基地局を利用して、全国3300カ所以上の基準局を設置する計画です。国土地理院の電子基準点は約1300カ所なので、それの3倍近い密度で基準局ができることになりますね。

ソフトバンクの基準局を使ったRTK-GNSS測量のイメージ(資料:ソフトバンク)

国の電子基準点を補完するNTTドコモ独自の基準局(資料:NTTドコモ)
GNSSで手軽に墨出しや出来形管理が可能に
両社の補正情報を使うことにより、1台のGNSS受信機があれば手軽に誤差わずか数センチの測位ができるようになります。NTTドコモ、ソフトバンクとも、安価なGNSS受信機の開発や、GNSS受信機がなくてもクラウド上でRTK測位が行える技術の開発に取り組んでいます。
これは従来のICT建機やGNSS測量機はもちろん、墨出し器やドローン、HoloLensやスマートグラスなどのMR(複合現実)デバイス、さらには建設用ロボットや掃除機、無人運搬車など、工事現場で使われるあらゆる機器を高精度で制御できるようになることを意味します。
もちろん、建設システムの「快測ナビ」も例外ではありません。測量機「LN-100」の位置を、GNSS受信機で測るだけで、電子基準点に準拠した座標での作業ができるのです。

「快測ナビ」による作業。電子基準点に準拠した測位が簡単にできるようになりそうだ(写真:家入龍太)
これまで現場で多く使われてきたメジャーや標尺、光波式測量機などのアナログ機器の多くが、RTK-GNSSを使ったデジタル機器に一斉に変わるきっかけになりそうですね。
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建設業にイノベーション!ソフトバンクがセンチ精度のRTK測位サービス(建設ITワールド)
http://ieiri-lab.jp/it/2019/06/softbank-rtk-gnss-service.html
報道発表資料「GNSS位置補正情報配信基盤」の提供開始(NTTドコモ)
https://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/2019/05/28_00.html
センチメートル級の測位サービスを11月末から提供開始(ソフトバンク)
https://www.softbank.jp/corp/news/press/sbkk/2019/20190603_01/

家入 龍太氏 プロフィール
BIM/CIMやi-Construction、AIなどの導入により、生産性向上、地球環境保全、国際化といった建設業が抱える経営課題を解決するための情報を「一歩先の視点」で発信し続ける建設ITジャーナリスト。新しいチャレンジを「ほめて伸ばす」のをモットーとしています。「年中無休・24時間受付」で、建設・IT・経営に関する記事の執筆や講演、コンサルティングなどを行うほか、関西大学非常勤講師として「ベンチャービジネス論」の講義も担当。公式サイトは「建設ITワールド」。
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